企業の価値を可視化する指標の 1 つとして、「顧客満足度( CS )」は長年重視されてきました。しかし、商品やサービスの単純な満足度ではなく「この会社を他人にすすめたいか?」という観点から、顧客ロイヤルティを数値化する「 NPS (ネットプロモータースコア)」が日本でも数年前から注目されており、マーケティングや顧客対応、コールセンターなど CX に関わる分野で広く活用されています。
本記事では、 NPS の基本から調査・計算手法、活用のコツ、そして AI 時代における新しいアプローチまで、コールセンター管理者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。

目次

  1. NPS とは?そのメリット・デメリット
  2. eNPS とは?
  3. NPS・eNPS の計算方法
  4. NPS 調査の進め方 対象、実施タイミング
  5. NPS スコアの評価と目安
  6. NPS 改善、スコアを上げるための打ち手 活用事例

 

1. NPS とは?そのメリット・デメリット

最初に、NPS とはどういった調査・指標なのか?そのメリット、デメリットについて、お伝えします。導入をご検討中の方、すでに導入を始めた方も、NPS の基本を知ることで、調査をより有意義なものにしましょう。

NPSの定義と意義

NPS ( Net Promoter Score )とは、2003 年にアメリカのコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルド氏によって提唱された、顧客ロイヤルティの指標です。
「この商品(サービス)を友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」
上記 1 つの質問、あるいは追加でその理由を伺い、顧客が企業やブランドに対してどれだけの信頼と愛着を持っているか、感情を測定します。

顧客満足度( CS )との大きな違いは

従来の顧客満足度( CS )調査では、特定の商品・サービスと 1 対 1 での評価になりやすく、必ずしも顧客の再購入や他者への推奨といった“行動”につながるとはいえません。
しかし、NPS は企業やブランドに対する好感度という側面もあるため、顧客の実際の購買行動とより相関が高いとされています。そのため、企業の業績に直結する経営指標として活用されているのです。
まとめると次のようになります。

  •  CS は「期待に対して満足したかどうか」を問うのに対し、NPS は「他人にすすめたいかどうか」を問います。
  • 顧客満足は高くても、他人にすすめるとは限りません。そのため、CS と NPS は必ずしも一致しないことが多く、NPS の方がロイヤルティや継続利用意向に直結する指標とされています。

NPS 調査の方法は 2 種類

NPS 調査の具体的な方法は、次の 2 種類です。自社の調査目的や課題に応じて、選択しましょう。

  • トランザクション調査:サービス利用直後など、特定の接点(トランザクション)で実施し、その体験に対する評価を収集する。
  • リレーショナル調査:企業やブランドに対する体験や印象など総合的な評価を把握するため、定期的(例:四半期ごと)に実施するもの。推移を比較することも。

NPS 調査 3 つのメリット

  1. 業績との相関性が高く、経営指標として有効
    NPS は顧客の再購入や離脱といった行動と強く関連しており、スコアの変動が売上や顧客数の増減に直結するケースも少なくありません。経営層が戦略判断を行う上でも、NPS は信頼できる KPI として活用されています。
  2. 調査設計がシンプルで、回答率が高い
    基本的には「すすめたいか」という 1 問と、自由記述欄の2つで構成されるため、顧客の回答負担が少なく、メールや SMS 経由でもスムーズに実施できます。設問のシンプルさが、結果の信頼性と継続的な運用のしやすさにもつながるでしょう。
  3. 他社との比較(ベンチマーク)がしやすい
    スコアが 0~10 の定量評価であるため、同業他社や業界平均との比較が容易です。競争優位性の可視化や、自社の改善努力の成果を確認する際にも役立ちます。

NPS 調査 3 つのデメリット・問題点

  1. ユーザーの評価理由が見えにくい
    数字だけでは、なぜ推奨・非推奨の評価をしたのかという「動機」や「感情の流れ」が把握できません。フリーテキスト欄や追加質問を設けないと、改善に結びつく具体的な示唆が得られにくくなります。
  2. 日本人特有の中庸志向でスコアが低くなりがち
    日本人は控えめで、他人に強く何かを推奨する文化があまりないため、たとえ満足していても 9〜10 点を付けない傾向があります。その結果、NPSスコアが実態よりも低く出る可能性があり、グローバル企業等の国際比較には注意が必要です。
  3. 質問タイミングや文言によって回答が左右されやすい
    サポート対応の直後や不満が解消された直後など、タイミングによって評価が大きく変動することがあります。また、「すすめたいか」という言葉のニュアンスの受け取り方によっても回答が分かれる可能性があるため、調査設計には慎重さが求められます。

 

2. eNPS とは?

NPS は外部からの評価指標ですが、それを内部向けに行う eNPS 調査(イー・エヌ・ビー・エス)というものもあります。つまり、 eNPS は「 Employee Net Promoter Score 」の略で、従業員エンゲージメント(愛着・信頼・意欲)の状態を測定する指標なのです。
「あなたはこの会社を働く場として他人にすすめたいと思いますか?」という設問を用いて、従業員のロイヤルティを定量化。その結果を職場環境やマネジメントの改善に活用していくのです。

3. NPS・eNPS の計算方法

NPS も eNPS も、計算方法は同じです。

 

この商品(サービス)を友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?

「この商品(サービス)を友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」という設問の回答を、0点「全くそう思わない」から10点「非常にそう思う」の11段階で回答してもらいます。
それぞれの点数は下記のように分類されています。

  • 9〜10点:推奨者(Promoter)
  • 7〜8点:中立者(Passive)
  • 0〜6点:批判者(Detractor)

そして、それぞれの回答者数を集計し、以下の計算式でNPSスコアを求め、スコアは+100(%)から−100(%)の範囲で表します。

【NPSスコアの計算式】
(推奨者数 − 批判者数)÷ 回答者数 × 100 = ◯%

例:100名を対象にNPS調査を行い、推奨者60名、中立者30名、批判者10名だった場合
(60名−10名)÷ 100名 × 100 = 50% →NPS50%

 

4.NPS調査の進め方 対象、実施タイミング

NPS調査を行う大まかな流れは、次の5つのステップです。

  1. 調査の目的・評価対象の明確化
  2. 質問、アンケート実施方法・設計
  3. 対象者・サンプル数の決定
  4. 調査実施タイミングの判断
  5. ツールの活用

ひとつひとつ、見ていきましょう。

1.調査の目的、評価対象の明確化

最初にNPS(eNPS)調査の目的と評価の対象を決めましょう。これらを明確にすることで、任意のタイミングで行うトランザクション調査にするのか、継続的なリレーショナル調査にするのか、方向性が定まります。

2.質問、アンケート実施方法・設計

回答のしやすさが、回答率向上につながり、より精度の高い調査結果を得られます。
回答者が「何をすすめたいのか」、問われている内容を瞬時に理解できるよう、シンプルな文言で伝えましょう。
そして、推奨・非推奨の理由を読み取るために、フリーテキスト欄を設け、スコアの裏にある感情や理由を把握できるようにします。

3.対象者・サンプル数の決定

調査の精度を確保するためには、少なくとも 400 名以上を目安に調査してください。 400 名集めることができれば、誤差を± 5 %の範囲に抑えることができるからです。2,000 件以上であれば、誤差が± 2 %程度になるため、さらに精度は高まります。

4.調査実施タイミングの判断

調査の目的、評価対象に合わせて、調査タイミングを決めます。

【実施タイミング選定のヒント】

  • サービス体験直後は、記憶が鮮明で率直な評価が得られる
  • コールセンター対応後など、特定接点の直後に行うのも効果的
  • リレーショナル調査は、半年ごと・四半期ごとなど定期的な実施で推移をみることが望ましい

5.ツールの活用

NPS 計測ツールを使えば、設問の作成から分析まで一元管理が可能です。
主要なコールセンターで採用されている Genesys Experience Index (エクスペリエンス・インデックス)などを使えば、既存のオペレーションに NPS 調査を容易に実装することができます。

関連リンク: The Experience Index by Genesys

 

5. NPS スコアの評価と目安

NPS 調査を実施した後は、スコアを評価しましょう。ここでは、その方法をお伝えします。

最大が+ 100、最小が− 100

前述の通り、スコアの最大値は+ 100、最小値は− 100 です。推奨者数から批判者数を引いて、サンプル数で割るため、推奨者が多ければプラスとなり、批判者が多ければマイナスとなります。

業界平均 競合のスコアを知る

一般的にプラスで 30 以上で好感触、50 以上であれば非常に良好な評価とされています。比較するのであれば、業界別の平均値や競合他者のスコア、また自社のスコア推移も見ていくようにしましょう。
ただし、数値に一喜一憂するのではなく、あくまでも目安と捉え、顧客の評価した背景をフリーコメント欄から読み取ることも忘れずに行います。

 

6. NPS 改善、スコアを上げるための打ち手 活用事例

NPS スコアが低い場合、その理由をフリーテキストや追加調査で掘り下げる必要があります。そこから得られた「声」をもとに、サービス体験等の具体的な課題を分析し、改善施策に落とし込むことが重要です。

事例1:コンタクトセンターを「ケアセンター」に再構築し、NPS も改善