スマートフォンの普及により、企業と顧客の接点は多様化しました。電話やメールに加えて、 Web フォーム、チャット、 SNS 、アプリなど、様々なチャネルを通じてやり取りが行われています。
こうした状況の中で注目を集めているのが、顧客接点を統合して一貫した顧客体験を提供する仕組み「オムニチャネル」です。本記事では、オムニチャネルの意味や特徴をはじめ、導入のメリット、業種別の具体的な活用事例、さらに導入時に押さえておきたいポイントを解説します。

目次

 

オムニチャネルとは?主な特徴

オムニチャネルとは

オムニチャネル( Omni-channel )とは、電話・メール・チャット・ Web ・ SNS など、あらゆる顧客接点を統合し、一貫した顧客体験を提供する仕組みを指します。語源は、ラテン語で「すべて」を意味する Omni と、「販路」を意味する Channel です。
チャネルを「増やす」のではなく、複数のチャネルを「つなげる」ことに重点を置き、どのチャネルからでも同じ品質のサポートや情報提供を受けられるのが特徴です。
業種・業態によって多少の違いはありますが、チャネルは「販売チャネル」「コミュニケーションチャネル」「流通チャネル」の 3 区分に分けられます。

  • 販売チャネル:実店舗、 EC サイト、専用アプリ、 SNS  、通販カタログなど
  • コミュニケーションチャネル:電話、チャット、 SMS  、 Web  広告、雑誌など
  • 流通チャネル:直接流通(直営店舗販売、通販、訪問販売など)、間接流通(主に小売り)

主な特徴 1. チャネルの統合

オムニチャネルでは、オンライン・オフライン問わず複数のチャネルを一元的に管理します。これにより、顧客が電話からチャット、チャットからメールといった具合にチャネルを切り替えても、情報が途切れずスムーズに対応を引き継ぐことができます。

主な特徴 2. シームレスな顧客体験

顧客は、自分の都合に合わせて利用するチャネルを選びます。オムニチャネルでは「どのチャネルを使っても同じ体験ができる」ように設計されており、顧客はストレスなくやり取りを続けられるのが理想です。

主な特徴 3. 統一された顧客情報

各チャネルで得た情報を統合し、顧客ごとに最新の履歴や属性を一元管理します。これにより、担当者は顧客の過去のやり取りや購買履歴を即座に把握し、より的確な提案やサポートを行うことができます。

主な特徴 4. 柔軟なルーティング

問い合わせ内容や顧客属性に応じて、最適な担当者やチャネルへ自動的に振り分けることが可能です。これにより、応対スピードが向上し、顧客満足度の高い対応を実現します。

主な特徴 5. リアルタイム分析

オムニチャネルではシステムで一元管理するため、各チャネルの利用状況や応対結果をリアルタイムで可視化できるようになります。データをもとに CX (顧客体験)を継続的に改善できる点も大きな強みです。

 

企業にオムニチャネルが必要な理由と業種ごとの具体例

現代の顧客は、スマートフォンや SNS を使って自由に情報を収集・比較し、複数のチャネルを行き来しながら購買や契約、相談に至ります。しかし、企業側のシステムがチャネルごとに分断されていると、対応履歴が共有されず、顧客は同じ説明を何度も繰り返さなければなりません。これが顧客のストレスとなり、 CX を大きく損なう要因となります。
オムニチャネル化によって、こうしたチャネル間の「断絶」を無くし、顧客の行動をひとつのストーリー(カスタマージャーニー)として理解・対応することが可能になります。

銀行・金融機関のケース

たとえば、契約中の顧客がスマホアプリで住宅ローンの金利や返済プランを確認し、後から電話で詳細を相談することを想定してみましょう。

【オムニチャネルがない場合】
アプリで調べた内容が電話窓口に引き継がれず、新規顧客なのか既存顧客なのか確認しないとわかりません。また、再度説明を繰り返す必要があるため二度手間と感じ、顧客満足度が低下します。

【オムニチャネルがある場合】
オペレーターがアプリの閲覧履歴を把握しており、「続きから話す」だけでスムーズに対応できます。顧客の手間が減り、信頼感と満足度が向上します。

【活用した機能】
チャネル間のデータ連携、顧客履歴の共有

 EC サイト・小売のケース

顧客が Instagram で商品を見つけ、 DM で問い合わせた後、店舗や電話で購入を相談するという場合で考えてみましょう。

【オムニチャネルがない場合】
SNS での問い合わせ内容を店舗スタッフが把握できず、顧客は再び商品・サイズ・在庫など、知りたいことを説明するのに時間をとられ、購入意欲が低下してしまいます。

【オムニチャネルがある場合】
店舗スタッフが SNS でのやり取りを把握しており、話の流れを引き継ぎ。スムーズな接客で購買体験が向上します。

【活用した機能】
オンラインと店舗の在庫・予約情報の共有、顧客行動履歴の一元管理

航空会社のケース

顧客がアプリで遅延通知を受け取り、 Web で代替便を検索。その足で、空港カウンターで変更手続きを行う、というよくある場面を想定します。

【オムニチャネルがない場合】
カウンタースタッフが顧客の操作履歴を知らず、再度状況説明を求める。遅延で気持ちが焦る中、待ち時間も増えることで強いストレスを感じます。

【オムニチャネルがある場合】
カウンタースタッフがアプリ・ Web での操作履歴を確認済みのため、即座に代替便を案内でき、手続きがスムーズに完了します。

【活用した機能】
アプリ・ Web ・対面の情報共有、顧客操作履歴のリアルタイム連携

保険会社のケース

事故に遭った顧客がアプリで事故報告を送信し、チャットで初期対応をした後、電話で補償内容を確認する場面を想定します。

【オムニチャネルがない場合】
オペレーターがチャット内容や画像データを把握しておらず、顧客が再度説明を繰り返す必要があります。対応が重複し、時間もかかります。

【オムニチャネルがある場合】
担当者がチャット履歴や画像を参照しながら説明を進められ、重複なく迅速で正確な対応をすることができます。

【活用した機能】
チャットと電話の対応履歴の統合、顧客データ(画像・メッセージ)の共有

オムニチャネル化の効果とメリット

オムニチャネルを導入することで、 CX の向上だけでなく、業務効率化や売上拡大といった次のような多くの効果を期待できます。

  • 顧客体験( CX )の向上:チャネルを横断したスムーズな対応で、ストレスのないやり取りを実現。
  • 応対時間の改善:過去の履歴や顧客データを瞬時に参照できるため、初回応対から的確なサポートが可能。
  • 業務効率化:情報共有や自動化によって、部門間の連携がスムーズになり、人為的なミスの削減も期待できます。
  • 販売機会の最大化:データを活用して購買傾向を分析し、最適なタイミングで DM や SNS でクロスセルやアップセルを提案するなどマーケティングに活用。
  • 従業員体験( EX )の改善:オペレーターは 1 つのシステムで、全チャネルを管理できることで、負担軽減とモチベーション向上につながる。顧客体験が向上していくと、従業員体験も向上するという好循環が生まれます。

「オムニチャネル カスタマーエンゲージメント 実践ガイド」をご活用ください。

https://www.genesys.com/ja-jp/resources/the-guide-to-ominichannel-customer-engagement

 

オムニチャネル戦略構築で検討すべき 4 つの課題と対策

弊社では、世界 100 カ国以上で多くの企業に導入してきた実績があります。それを踏まえて、オムニチャネル化を進める際に特に重要と考える4つの課題をお伝えします。ぜひ、参考にして自社の状況と照らしあわせて、対策を検討してみてください。

1.既存システムとの整合性を確認

長年運用している CRM (顧客管理システム)や PBX (電話交換機)との連携や、データ移行の負担が大きいのではないかと不安を感じる方も多くいらっしゃいます。
しかしながら、オムニチャネル化を実現するシステムでは、多くの既存システムと API 連携できますし、小規模の窓口から段階的に移行することによって、リスクを低減できます。

【対策の方向性】
まずは既存システムの洗い出し、残すべきデータを把握しましょう。それらに連携できる実績のあるシステムを選定することで、オムニチャネル化のデータ移行の工数は削減できるからです。
Genesys Cloud CX の場合、オープン API で既存 CRM ・ ERP ・ PBX と連携し、クラウド移行を段階的に実現することが可能です。

2.コスト・ ROI の可視化と効果測定

「システム移行=莫大な費用が発生する」と考える経営層に、費用対効果を説明しづらいと頭を悩ませるのはナンセンスです。それは、クラウド移行によるオムニチャネル化は、汎用のシステムをカスタマイズしていくため、従来よりもコストを抑えながら、効果測定に役立つ機能も利用できるからです。

【対策の方向性】
同規模の事例提示や、小規模導入( PoC )や効果測定を通じた ROI の可視化によって、経営層に説明をしましょう。また、コールセンターが分断されているために発生している問題とコミュニケーションのロス、 CX ・顧客満足度( CS )の向上や従業員満足度( ES )の向上も効果測定の指標として有効です。
Genesys Cloud CX の場合、ダッシュボード分析で応対数・顧客満足度・稼働状況を数値化し、投資効果を見える化する機能を実装しているため、管理工数も削減できます。

3.顧客データの扱い・セキュリティ対策

オムニチャネル化でシステムを統合すると、データにアクセスできる人員は増えるでしょう。だからこそ、個人情報保護や法規制への対応に、より慎重に対処しなければなりません。そのためには、データのアクセス権限を制御したり、セキュリティ対策を実装しているシステムを選定する必要があります。

【対策の方向性】
セキュリティ要件を満たすクラウド環境や権限設計の導入を、セキュリティ担当者に確認しながら選定しましょう。
Genesys Cloud CX は、国際規格( ISO27001 等)に準拠したクラウド環境で、データ暗号化・アクセス権限管理を標準装備しているため、自社による対策を最小限にできます。

4.社内リソースの確保

従来のシステムでは、保守管理や運用、機能開発に専門知識を持った人材を必要としてきたため、システム構築できる人材の確保に頭を悩ませることもあったでしょう。しかし、前述の通り汎用のシステムをカスタマイズして利用し、サポート窓口もあるため、社内には窓口となる担当者が数名いれば充分といえます。

【対策の方向性】
全体を把握できる部署や担当者を決め、必要に応じて外部パートナーとの協業体制を整備していく。多くの場合、クラウドサービスを提供する企業の担当者に相談すれば、解決策を提示してもらえるでしょう。
Genesys Cloud CX の場合、クラウドベースでノーコード設定が可能です。担当者の運用負荷を軽減し、外部サポートとも連携しやすい体制を構築しています。

【『オムニチャネルや AI 活用を見据えたクラウド型コンタクトセンター選択のポイント』】

https://www.genesys.com/ja-jp/resources/points-for-select-cloud-cc

 

Genesys Cloud が実現する”さらに進化した”オムニチャネル体験

課題をクリアし、オムニチャネル戦略を構築した先には、より高度でパーソナライズされた顧客体験が待っています。 Genesys Cloud CX は、その実現を強力に支援します。

チャネルを超えた顧客体験の一貫性

電話・メール・チャット・ Web ・ SNS などを 1 つのシステムで管理し、どのチャネルでも同じ情報と対応品質を提供します。これにより「同じことを 2 度も話すの?」という不満は無くなり、顧客満足度も向上します。

 AI による最適化された体験設計

AI ルーティングやチャットボット、感情分析を組み合わせ、顧客の状況に応じた最適な担当者やチャネルを自動で選択します。

リアルタイムなデータ活用

通話やチャット内容を自動でテキスト化・分析し、顧客体験を継続的に改善。 CX の改善サイクルを高速で回すことができます。

データドリブンな CX マネジメント

各チャネルのデータをダッシュボードで統合可視化し、経営層から現場まで一貫した KPI 管理を可能にします。

 EX の最適化

オペレーターは 1 画面で全チャネルの履歴を確認でき、チャネルの切り替えに伴うストレスが軽減されます。さらに AI アシスト機能が自動で回答候補や関連情報を提示し、応対品質の標準化を実現します。

【『オムニチャネルや AI 活用を見据えたクラウド型コンタクトセンター選択のポイント』】

https://www.genesys.com/ja-jp/resources/points-for-select-cloud-cc

 

オムニチャネル化の事例:株式会社山陰合同銀行

オムニチャネル化の事例:株式会社山陰合同銀行

株式会社山陰合同銀行様は、近年持続的な成長に向けたビジネスモデルの変革に取り組んできました。そして個人客向けアプリや法人ポータルなどの DX 基盤をもとに取り組む、新たな DX 戦略の 1 つが、オムニチャネルの推進です。

「単純なシステム更改ではなく、非対面チャネルの強化を見据えて、各チャネルの動線をつなげ、生成  AI  なども使いながら、顧客満足度、生産性、収益性、従業員満足度のすべての向上を目指した」とき、 Genesys Cloud CX を導入。日々、進化を続けながら、活用いただいております。

株式会社山陰合同銀行の事例を詳しく見る

 

まとめ: CX 時代の企業競争力を左右するのは「チャネル統合力」

オムニチャネル化は、単なる「全ての経路の統合」ではなく、顧客体験全体の最適化を実現し、コストの削減や従業員満足度の向上ももたらす重要な経営戦略です。
既存のデータ資産を活用しながら、最新のテクノロジーによる機能で顧客・従業員・経営者ともに成功体験を得られます。
オムニチャネル化は、 Genesys Cloud CX にお任せください。

【 Genesys のソリューション】

Genesys Cloud CX

 

よくある質問:

 Q :オムニチャネルと、マルチチャネル、クロスチャネル、 O2O との違いはなんですか?

A :オムニチャネルに似た言葉として「マルチチャネル」や「クロスチャネル」、「  OMO  」があります。いずれも複数のチャネル運用において用いられる考え方、もしくは運用方法ですが、それぞれ概念や目的は異なります。

マルチチャネルとは、複数のチャネルを同時に運用することです。あくまでそれぞれが独立した運用で、チャネル同士を連携・統一したり、チャネル間のギャップを考慮したりといった運用方法は考慮していません。

クロスチャネルとは、複数のチャネルがあるときに、チャネル同士で顧客や在庫などのデータを連携している状態のことです。
クロスチャネルの目的は情報の一元化で、販路ごとのデータ管理によるデータの煩雑化を防いだり、統一的な顧客へのアプローチを可能にしたりといった効果が見込めます。

OMO  (  Online Merges with Offline  ) とは、日本語に訳すと「オンラインとオフラインの融合」という意味です。顧客がオンラインとオフラインの垣根を意識せず利用できる環境、もしくはそのための施策を意味します。
似たような言葉に  O2O  (  Online to Offline  ) という、オンラインからオフラインへの送客を意味する言葉もあります。 O2O  はあくまでオンラインとオフラインを区別して考えるもので、 OMO は両者を区別せず考えることに焦点が当てられています。
OMO は、複数チャネルの垣根をなくすオムニチャネルと考え方が似ていますが、オムニチャネルはオンライン・オフライン関係なく複数チャネル間での垣根をなくすことを目的としているところが異なっています。