CX の未来に活用すべき、これからの AI 

2023 年 9 月に開催された G-Summit Japan 2023 のパネルディスカッション 「 CX における AI 活用のこれから」 から、 企業のキーパーソンによるコールセンターでの AI 活用の現状や AI の今後の活用方法に関するディスカッションの様子をレポートいたします。

レポートの前編は、こちらからご覧ください。

また、ビデオアーカイブもぜひご覧下さい。

 

■パネラー
株式会社 ELYZA:取締役 CMO 野口 竜司 様
株式会社 NTT ドコモ:情報システム部長 井尻 周作 様
トランスコスモス株式会社 CX 事業統括 DX 推進本部 DX ソリューション統括部 副統括部長:高橋 亮太 様
ジェネシスクラウドサービス株式会社:ポール・伊藤・リッチー

■モデレーター
Forbs Japan:谷本 有香氏

谷本: 生成系 AI への期待や活用方法、そして課題はどのようなもので、それらをどのように乗り越えていったら良いのでしょうか。

ELYZA 野口: 期待という意味では、ホワイトカラー業務の生産性が上がることは実験でも確認されています。生成 AI を使ったグループの方が、使わなかったグループよりも 37% も時間を削減できたということです。あとアメリカでは、労働人口の 8 割の仕事に 10% 影響があるとか、 19% の人の仕事に 50% 影響があるというレポートがあります。コールセンターの仕事というのは、後者の 19% の方にあたるのではないかと思うのです。非常に大きく変化が起こり得る業界なのではないかと考えています。大規模言語AIによるコールセンター変化の予測これはコールセンターの中の仕事を私なりに分類したものですが、左側が手動的で右側が分析的、下が定型的で上が創造的というふうになっています。これらの業務のそれぞれが変わるということです。左上だと自動化とかドラフト作成、左下なら音声をテキスト化したものを要約するといった業務です。これらに関しては、ほぼ AI で自動化できるのではないかなと思います。あとは、特に右上とか得意ですよね。顧客の購買データを入れてみて、これはどういった人か、みたいなことが解析できるでしょう。一方で、特に日本においては、お客様の情報などは堅牢に扱わなければいけないという情報管理のリスクとか懸念があります。ですので、技術的なことを見ながら、どのようなポリシーで、どう丁寧に扱っていくのかを、気をつけなければいけないと思います。

ドコモ井尻: 最近は AI を使う上でガードレール設定とか、セキュリティをどのようにチェックすべきかという話がありますが、欧米と比べて日本特有の注意点みたいなのがあれば教えて下さい。

ELYZA 野口: たとえば匿名化の加工などにおいても、欧米はシンプルですが、日本語の名前ってすごいバリエーションが豊かですよね。あとは音声のテキスト化においても英語の方が精度は高く、日本語ならではの難しさがあります。

トランスコスモス高橋: 今回第 4 次 AI ブームと言われていますが、過去 3 回のブームではちょっと勢いが衰える瞬間がありました。今回は今までとは違うと言われていますが、この第 4 次ブームがもう1回萎む可能性、もしくは発展の障壁になりそうなものはありますか。

ELYZA 野口: あるとしたら、 OpenAI の GPT が一強になってしまう場合かと思います。稼働させる GPU が足りないという問題があって、単位時間あたりの回答頻度とかスピードが規制される可能性があります。それをどう分散させていくかですが、インフラ側の負荷を減らすために小さいモデルを使うとか、いろいろな AI のモデルがあった方がいいのではないかということで、私達も頑張っています。GPT4 とかは非常に大きいモデルなので、例えば数十万件を一気に処理しようとすると難しいところがあります。そこをうまく工夫しないと、生成 AI の良さを引き出しにくいんじゃないかなと思っています。

ドコモ井尻: 我々 NTT グループも、まずは社内利用から生成 AI の活用を始めています。特にセキュリティについては、顧客情報を何でも学習させていいのかという話があるので、フィタリング機能を使って情報をフィルタリングして、そこから AI に連携するといった形です。顧客対応やコンタクトセンターにおけるAIの活用これまではテキスト分析とかコンテンツの出し分け、チャットボットなどをやってきましたが、これからは音声のテキストを自動で要約し、いろいろなチャネルに来られたお客様の情報を統一的に管理して顧客体験を提供するという取り組みです。あとはナレッジの生成ということで、約款のコンテンツ変換や、お客様の困りごとの先回りなどが考えられます。あとは CX だけじゃなく、オペレーターの EX も向上していきたいという点に関しては、 AI の活用によってオペレーターの学習負荷を少しでも減らしていけるような取り組みを考えています。ドコモショップは今後数的には減っていくでしょうが、シニアの方など、どうしても対面の応対が求められることもあります。その時に店舗ではなくて、メタバースみたいなものを使えないかと考えています。例えば、沖縄のオペレーターが青森のお客様に応対するといったことがメタバース上で実現できる世界が構築できるのかなと思っています。

リッチー: この 3 段階はお手本にできると思うので、ぜひ皆さんお持ち帰りいただくといいですね。

ELYZA 野口: 井尻さんがこれからの AI 活用で一番やりたいとか、やるべきだと思ってらっしゃるのはどれですか。

ドコモ井尻: 今はオムニチャネルの応対です。チャットボットがあって、コールがあって、ドコモショップがあってと、いろいろなチャネルがあります。ですから、「昨日電話で言ったんだけど」といったように、どうしても応対がバラバラになったりします。統一的にお客様の応対をするという世界を、まずは実現したいと思っています。あとはオペレーターの学習とかクレーム対応など、負担の軽減や EX の向上は早く実現させたいですね。

トランスコスモス高橋: 私たちが行っている生成 AI の活用について、 2つ ご紹介させていただこうと思います。まず 1 つ目は、オペレーターから管理者にエスカレーションやいろいろな相談事が発生する時に、それを ChatGPT に一次受けしてもらおうという取り組みです。オペレーターからはいろいろな理由でエスカレーションが上がってくるので、受ける側の管理者としては優先度付けが難しいわけです。そこを ChatGPT で自動応答する取り組みを行っています。実際には FAQ のデータやマニュアル、過去のエスカレーションログをデータとして使い、  FAQ で回答できるようなものなら FAQ を提示し、 FAQ にないものに関してはマニュアルなどのデータから回答を AI で作って、引用元も提供するといったことをしています。これで保留を避けられたり、保留時間を短縮できたりするので、お客様の CS を向上させられます。また、管理者も手が空くことになるので、それ以外の業務も行えるようになります。ですから、生産性はよくなっていくのかなと思ってます。 2 つ目は、音声認識システムで得た会話ログを要約する取り組みです。生成 AI の要約技術は非常に優れているので、後処理のログを書く作業の短縮に活用しています。例えば音声認識の文字数で言うと、 97% も圧縮できます。GPTを活用したコンタクトセンター生産性向上支援ツール

ドコモ井尻: 「強み」のところに「セキュアな環境、個人情報の削除」と書いてあります。お客様が自分で電話番号とか住所をおっしゃって、個人情報が入るケースがあるかと思いますが、そういったものは、一旦マスクなどされてから要約に持っていくのですか。

トランスコスモス高橋: 弊社には生成 AI 以前から「 transpeech 」という独自の音声認識システムがありまして、個人情報を除去する技術には以前から取り組んでいました。それが今回たまたま役立ったということです。

谷本: 技術によって CX が向上すると言っても、日本の強みである「おもてなし」には、そういった技術は使わない、という部分があったのではないかと思います。技術が進むことで「おもてなし」やパーソナライゼーションが一般化すると、他との差別化ができなくなってしまうのではないでしょうか。

トランスコスモス高橋: 難しいですが、問題解決は早い方が良いと思っていますので、そういう意味では問題解決を早めることで満足度を高められるのかなと思います。ただおっしゃる通り、個性がなくなってしまうということはあるかも知れません。私たちトランスコスモスは、「生成 AI が出てくると御社の仕事は無くなるんじゃないの?」って言われたりするのですが、 AI を徹底的に使いこなすことによって差別化がなくなっていく中で、トランスコスモスの生成 AI を使うことでパフォーマンスも出て満足度も上がるといった取り組みを実現していきたいなと思ってます。

ドコモ井尻: コールセンターの離職率の高さや学習コストの問題を、こういった技術によって解決するということですね。 AI に限らず IT の本質は、機械にできることは機械に任せて、人間は創造的な仕事するっていう世界観だと思いますので、極力そういうところに近づけていきたいと思います。一方でリアルでの応対も求められるので、それを仮想化やメタバースで埋めて、リアルとバーチャルの世界をうまく融合できればと思っています。

ELYZA 野口: 冗談のようで本気なのですが、旅館の女将さんとプロンプト作るのが一番良いのかなと思っています。日本におけるサービス品質について、暗黙知も含めてどう AI に理解してもらうかということだと思います。あと、私が危機意識を持っているのは、今後こういった顧客サービスが国を超えて越境してくるということです。翻訳 AI とか要約 AI とかを駆使して、海外から日本のサービスをケアする世界もありえますし、逆に日本から他の国に対して越境できるような状況にするのかっていうことを意識しなきゃいけないなと思っています。

谷本: 質問がたくさん来ていますが、 3 つだけ取り上げさせてください。まず 1 つ目、近い将来コールセンターの一次対応は 100% AI の自動応答に任せられるようになると思いますが、それはいつ頃かと思いますか ?  2 つ目、 AI がもたらす可能性の中でまだ十分に活用されていない領域はどこだと思いますか ? 3 つ目、今までは各社で従業員に対しコンプライアンス研修が行われてきました。今後各社で AI に対してもコンプライアンス検証を行う必要が出てくると思いますか ?

ドコモ井尻: 今は IVR があって、そこで番号を選んで貰うんですが、ほぼ 90% 「オペレーターに繋ぐ」が選ばれます。そこをうまく AI によって選り分けられれば、ある程度のところはそこで前処理できると思います。ただ、 100% は厳しいかなと思います。

ELYZA 野口: 何年後に 5 割ぐらいに行きそうっていう予想はありますか ?

ドコモ井尻: 技術も進化しているので、多分 5 年以内には前さばきのところで 8 割 9 割ぐらいかなという感覚です。

ELYZA 野口: もしかしたら 3 年とかでガラッと変わる可能性もあるのですが、音声認識の精度がどこまで上がるかで変わりそうですね。

谷本: あと、 AI がもたらす可能性の中で十分に活用されていない領域、もう一つがコンプライアンス研修ですね。いかがでしょう。

ドコモ井尻: 私の期待も込めてなんですけど、マルチクラウド環境での運用監視に AI を使うことです。監視ログなどをうまく集めて、オペレーター 1 人とか2 人で全体のサービスを監視できないかなと思っています。ご質問の答えにはなっていないかなと思うのですが、そこはまだまだ活用できるかなと思います。

トランスコスモス高橋: そうですね。直接お客様対応というよりは、オペレーターに長く気持ちよく働いてもらうということに対し、 AI を活用できていないんじゃないかなと思います。作業を楽にするための AI 活用もあると思いますが、オペレーターが辞めてしまうケースで、どうしたら AI がそれを予測したり補ったりしていくかみたいなことは、まだまだ今後可能性があるんじゃないかなと思います。

ELYZA 野口: EX では、もっとできることがありますね。お客様対応におけるちょっとハードな場面で AI を前に立てるとか、ハードな話があったら後で励ます AI が寄り添ってくれるとか、そういったことによってだいぶ変わりそうだなと思います。あと欧米に比べて遅れているなって思うのは、直接顧客対応ですね。先ほど 5 年っていう話がありましたけど、アメリカなら「 2 年以内に 70% にしろ」みたいな目標設定があり得るので、そこらへんはまだまだ踏み込めてない領域なんじゃないかなというふうに思いました。

リッチー: 私は、海外の動向に対して日本がどんどん追いついていると思います。アメリカと違い、日本のおもてなし文化っていうのは、最後は人間と人間がしっかり会話していくっていうところがすごく重要視される文化だと思いますので、お客様との共感性を見せないといけない場面っていうのは必ず出てくると思っています。最終的には、技術の進化とともにしっかり日本の良いところを残していくというところが重要なんじゃないかと思いました。

ELYZA 野口: PL だけ見て合理的に判断する経営者だったらバシバシ行くでしょうが、それとは違うことが日本独特の良さとしてあると思いますし、グローバルで合理主義的に AI をどんどん活用するような企業の価値が上がるとか、利益が出るみたいな話になるのなら、それをミックスしながら価値観を新しく作っていく必要があると思います。

谷本: では、 4 名の皆さんにイエス・ノーで。 AI に関してもコンプライアンス研修が必要だと思う方、挙手いただけますか。

(全員挙手)

谷本: 最後に一言ずつお願いします。

トランスコスモス高橋: 生成 AI は身近な存在になり、1 人 1 人が使えるという点で、今後すごく変わっていくかなと思いますので、皆さんと一緒に CX 作っていければと思います。

ドコモ井尻:  AI や IT は、より創造的な仕事をするためのツールだと思います。社員もお客様もワクワクする世界観を作っていきたいなと思っています。

ELYZA 野口: 私は、生成 AI の影響を最も受けるのが CX 並びにコールセンターの業界だと認識しています。これから皆さんは大変動・変革期に入っていくと思いますが、それを楽しみながら新しい形を作っていくということで、一緒に行動できればなと思っております。

リッチー: 時代はどんどん変わっていますね。これまで日本は少し遅れているイメージだったのですが、今日は何か、追い越していくような感じをすごく覚えました。引き続き、皆さんと一緒に、そういう形を作っていけたらなと思います。

谷本: 皆様、今日はありがとうございました。

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