2023 年 9 月 に開催された G-Summit Japan 2023 のユーザートークセッション 「 アフターコロナの CX 」 では、いち早く CX を企業戦略として取り入れ実践しているユーザー企業の皆様にご登壇いただきました。登壇者の方には、新型コロナウイルスの影響や消費者の変化、デジタルシフト、 AI をはじめとしたテクノロジーの進化などについて伺うとともに、これらの変化がCX やコンタクトセンターにもたらす変革についてもディスカッションを行いました。
その内容をまとめてご紹介します。

 

■パネラー
株式会社えがお : 上席執行役員 林 純一 様
オリックス生命保険株式会社 : カスタマーサービス本部カスタマーサービス部長 伊藤 好博 様
株式会社 LIXIL : マーケティング部門カスタマーサービス統括部サービス改革推進部部長 高野 弘志 様

■モデレーター
Forbs Japan : 谷本 有香氏

谷本 : まずは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、カスタマーセンターにどういった影響があったのか、その中でどういった CX 戦略を進めて来られたのかについてお伺いします。

えがお林 : 「えがお」 は健康食品の通販会社です。コロナ禍で人が外に出なくなったことや、健康意識が高まったことで、売り上げは伸びました。ただ、コールセンターに関しては、皆で集まってオペレーションを行うことが難しかったです。当然、感染する人もいましたから、かなり気を使いました。

株式会社えがお 会社概要

オリックス生命 伊藤 : 私たちは、医療保険にご加入中のお客様から、給付金請求を数多く頂きました。件数が想像以上に多く、残念ながらお支払いの遅延なども起こり、大きな課題を残したと思っております。一方で、デジタル化は進みました。コロナ前は、デジタル経由でのお問合せやお申し込みは20%ほどでした。しかし、昨年度は約40%がデジタルによる手続きとなり、デジタルを使用したお客様からのコンタクトが増えています。

LIXIL 高野 : 事業としては、売り上げは少し低下しました。コールセンターについては、コロナ対策で人数制限を行ったほか、実際に人が来られないということもありました。ただ、東京オリンピックに対応するために、ちょうど在宅コールセンターの準備をしていたこともあって、比較的早めに在宅勤務に対応することができました。一方で、ショールームは一時閉鎖するなどかなり影響を受けたため、デジタルショールームという形でオンラインでのショールームを始めました。こちらは現在も続いていて、デジタルで対応してから、実際のショールームに来ていただくといったことも可能になりつつあります。

谷本 : 新型コロナウイルスのパンデミックという、これまで誰も経験したことが無いような事態が起こる中、新たな対策を立てていかなくてはいけない。この時、一番大変だったのはどのような点でしたか。

LIXIL 高野 : 逆に、このパンデミックのおかげで、デジタル化や在宅化が一気に進んだと思います。オンラインのテレビ会議などはコロナ前から導入されていたと思いますが、完全に 100% オンラインで行うところは、それほど多くなかったと思います。ですから、そこの部分は急速に普及が進んだと思います。

オリックス生命 伊藤 : 私たちは保険会社なので、書類での対応がどうしても必要な業務があります。ですから、完全なデジタルシフト、在宅化は難しい部分があります。完全な在宅化ができない状況の中、お客様対応とのバランスを取るのに苦労しています。

オリックス生命 コンタクトセンター概要

えがお林 : サプリメントを購入する層は比較的年齢が高いということもあり、電話での対応は非常に大切です。私たちのコンタクトセンターでは、 「お客様のことを、きちんと受け止める」ということを徹底しています。お客様の相談相手になる、お客様に寄り添う、といったことは、できたと思っています。

谷本 : コロナ禍を乗り越えて、それぞれ進化を実現されてきたわけですが、今年に入ってから CX 戦略や顧客接点に関する取り組みは変わってきましたか。

えがお林 : 今年に入ってから、セールスフォースを全面的に導入しました。今までは人の力に頼っていたのですが、現在ではお客様が 90 万人になりました。また、すでにお止めになった方が 400-500 万人います。ですから、瞬時に検索を行うことが難しく、ホスピタリティという人の力を、デジタルの力で底支えしようとしています。

オリックス生命 伊藤 : デジタル化が進んだことで、電話の内容も変わってきました。デジタルでの手続きに関するお問い合わせが増えてきているのです。そして、電話から Web に誘導するなど、様々なチャネルを組み合わせることが重要になってきたと感じています。

LIXIL 高野 : 今のお話に関しては、弊社でも同様のことがあります。高齢の方が増えてきて、 Web サービスについて電話をいただくケースがかなり増えました。一方、全体を見ると、デジタルを使われる方の裾野はすごく広がってきたなと感じています。例えば、東京では Web からの修理依頼の多くは 40 代前後でした。しかし、だんだん 50 代、 60 代の方が増えてきたという印象を持っています。

リクシルについて

谷本 : デジタルに関するお問い合わせが増えてきたことに対して、システム設計など、どのように対応されてきたのでしょうか。

LIXIL 高野 : ジェネシスのプレディクティブエンゲージメントを使っています。お客様がネット上でどんな動きをしているのか、以前に比べるとかなり明確に見えるようになりました。こちらが想定したのとは、全く違うアウトカムが上がってくることもあります。コンタクトセンターでも、 Web を見ている前提でお話しする場面が非常に増えました。

オリックス生命 伊藤 : やはりオペレーターが重要ですので、オペレーターの声を必ず吸い上げる仕組みを作っています。また、手続きの後にはアンケートを必ず取ります。お客様の直接的な声をお聞きし、オペレーションの改善に生かしていきたいと考えています。

えがお林 : 電話での対話は、お客様とオペレーターが時間を共有するものです。メールやSNS だと、どうしても時間の差が発生してしまい、気持ちが伝わらないということが起こりがちです。デジタルといってもコミュニケーションなのですから、電話のような一対一のコミュニケーションに、どれだけ近づけるのかということが重要だと思います。

谷本 : 「 カスタマーエクスペリエンス 」 を高めていくために、当然ながら DX を構築して行く必要があると思います。どういった形で DX のリテラシーや文化を推進してきたのでしょうか。

えがお林 : セールスフォースを導入し、追加購入に適した商材をシステムがピックアップして、それをお客様にお勧めするというプロジェクトが始まりました。しかし、ベテランのオペレーターには、 「それは、話の中で自分が感じ取るものだ 」 という認識がありました。システムからのお勧めよりも、自分の経験値の方が高いと思っているわけです。もちろん、そのこと自体は悪いことではありません。経験値の方が重要なことは確かにあります。ですが、今後事業が拡大して新人のオペレーターが入ってきた際、新人がベテランのレベルに 1 日でも早く到達できるようにすることが大切なわけです。ですから、そのために、こういうシステムが必要なのですと説明しました。ベテランのノウハウをシステムにフィードバックして学習させるために、オペレーターの皆様に協力をいただいています。

LIXIL 高野 : オンラインショールームの構築では、様々な部署がお互いに協力しました。コロナ禍がこのまま続いたら、この仕事が本当になくなってしまうのではないかという危機感がありました。こうして最初のスタートが切れたこと、在宅化に舵を切れたことの背景には、このように危機感を共有できたことがすごく大きかったと思います。

オリックス生命 伊藤 : 生命保険会社は、本当に多くのお問い合わせを頂いて必要に迫られたこともあり、様々なシステムを導入しました。特に、チャットやボイスボットなど、早く導入できるものから DX を進めてきました。リテラシーに関しては、「これらをどうお客様に説明するのか」 という点からアプローチしています。

谷本 : 昨今、 ChatGPT をはじめとした生成 AI が注目を浴びています。こういった新しいテクノロジーがどんどん出てくる中で、 IT 活用についてはどのようにお考えですか。

パネラー3名の写真

えがお林 : ChatGPT も AI も、人のパフォーマンスを最大化するものだと思っています。例えば、記憶や検索の速さなどは、システムとかデジタルのほうが得意です。これらがどのように人間を支えるのか、その仕組みを作ることが大事だと思います。そう考えると、 AI に仕事を奪われるとか、そういうことを懸念するのでは無く、使えるものは全部使ってお客様のために活かしていくというスタンスが必要です。

オリックス生命 伊藤 : お客様とコンタクトをとる手段は、非常に増えてきました。しかし、サービスの質を保つためには、しっかりとした体制を整えることが重要だと思っています。当社では、お客様の声を直接反映できるようにするため、デジタル化の企画をコンタクトセンターの中で行っています。また、運用の質を維持するために、オペレーションを管理する組織も作っています。こういった体制を構築することにより、お客様が電話、デジタル、どちらでコンタクトをしてきても、誘導の仕方を統一することができます。つまり、質の高いサービスを、スピーディーに提供することができるのです。このように、 IT と言っても、実は体制の構築が非常に重要だと考えています。

LIXIL 高野 :当社には、 「 小さく実験する 」 という文化があります。 ChatGPT に関しても、今は社内で運用を進めているところです。使い勝手の面で課題もありますが、音声認識と組み合わせてコール後のログを要約させるという取り組みを行っています。原文の要約については、非常に高い精度を出すことができます。コンタクトセンターの生産性に関していうと、すでに 20% ~ 30% 向上しており、非常に効果的・効率的に人のサポートができるという印象を持っています。このような機能が非常にリーズナブルな値段で使用できるということが、一番インパクトがあるかなと思っています。コスト面では大きなメリットがありますので、これを使わないということはまずありえないだろうと思います。

谷本: AI のような新しいテクノロジーが現れた際、これらを活用していくことは重要ですが、様々な課題もあるかと思います。こういった新しい技術への向き合い方については、どのように考えておられますか。

えがお林 : 弊社では、オペレーターとお客様の会話を文章にして記録に残しています。その記録は、何十万人分もあるわけなんですが、それだけだと活用できるデータにはならないんです。テキストマイニングなどもしてみましたが、分析して結果をフィードバックするというのはなかなか難しい。情報をデータとして活用していくためには、 AI の特性やシステム全体を、現場でも感覚的に知ってもらわないといけないのです。自然言語解析といっても完璧ではないので、デジタルとアナログ、双方で理解が必要です。リテラシーという意味ではこれからまだ勉強する余地がありますね。

オリックス生命 伊藤 : 新しい技術に、まずはチャレンジしてみようという考え方があります。例えば、音声認識でボイスボットを導入する際には、心配する声もありました。しかし、実際やってみると意外と使える場面も多くて、これはかなり戦力になるなと感じています。 ChatGPT についても、お客様対応にはまだ活用しないとしても、どれだけ使えるのかを社内で試している状況です。

谷本 : 最後に、アフターコロナの時代の中において CX 戦略というものをどのように考えているのか、ぜひ皆様にお伺いしたいです。また、コンタクトセンター戦略に関してもお聞かせ願えますか。

えがお林 : これは、私が TMJ の社長をしていた時によく使っていた資料です。セールスをサジェストに変えたのですが、アウトバウンドかインバウンドか、お客様をケアするカスタマーサポートかセールス / サジェストかで 4 つに割っています。

株式会社えがお マトリックス資料

インバウンドでケアする 「 お客様相談 」 のような機能は、昔から右下の領域にありました。同時に、左上の領域である 「 アウトバウンドでサジェストする 」 というのも、古典的な手法としてありました。これらに加え、例えばお客様から電話がかかってきて相談があった際、その中で自社商材をすすめるという 「 インバウンドでサジェストする 」 もあります。実は、これはアウトバウンドしてセールスを行うよりも、スムーズな売り方です。これを進めていこうという動きが一昨年ぐらいからあって、インバウンドのサジェストを始めました。そして、これはものすごく大きな成果を出しています。もう一つの領域は 「 アウトバウンドのケア 」 です。これは、セールスを目的としていません。お客様に電話やメールをして、 「 購入ありがとうございました 」 、 「 不具合はないですか 」 、 「 ご希望ありますか 」 などを伺います。今の 60 代は、デジタルメディアを使いこなしています。ですから、メールや SNS を使ってこの二つの可能性にチャレンジしたいというのが、私たちの今後の方針です。

オリックス生命 伊藤 : コロナ禍では、様々なコンタクト手段をたくさんリリースしてきました。今後はもう一歩進んで、お客様に対してどの方法が最適なのかを提案できる仕組みを作っていこうとしています。加えて、今まではインバウンド中心でしたので、今後はこちらから能動的にコンタクトを取ることも目指していきたいと思っています。お客様が安心できるちょうどいい距離感を持ったコンタクトというのを目指しています。

LIXIL 高野 : 今日はシステムの話が多かったのですが、昨年から私たちも CX に大きく舵を切っています。 「 ツールはだいぶ揃ったけど、お客様は実際に良い体験されてるのか 」 という議論を社内でもかなり行っています。お客様の NPS はどうか、従業員はそこに対してきちんと話ができているか、これからお客様にどのように向き合うのか、ということを改めて調査し、デジタルツールを最適化するつもりです。当然、パーソナライズ化も行っていくべきだと思っていますが、私たちの場合は年齢層に合わせた取り組みがまだできていないと思っております。ですから、まずは年齢層に合わせた取り組みを行い、入り口のハードルを下げ、コンタクトをしっかり取とうとしています。

谷本 : 皆様、今日はありがとうございました。